こんにちは、山口です。
いよいよ、「而今の会」演奏会本番まで1ヶ月を切りました。
最後までしっかり練習し、ブログでの情報発信の方も充実させて本番を迎えたいところです。
さて、今回は「オンライン下合せの舞台裏」と題しまして、先週までのオンライン下合せを一体どのようにやって来たのか、「タネ明かし」してみたいと思います。
1、合わせるための「ベーシック・トラック」と、重ね録り「オーバーダビング」
音楽を全く別の場所で、相手の音を聴くことなく演奏すると、当然テンポやタイミングがズレますよね。そうならないように、まずは「テンポを揃える」ためのベースとなる録音をしました。僕はこれを「ベーシック・トラック」と呼んでいます。
ただ、厳密にはこれは用語の意味が違っていて、本当はバンドやポップスのCDなんかを作るときに、まずはリズムギターとベース、ドラム、仮の歌など「音楽の基礎」の部分だけ先に録音してしまい(これを本当は「ベーシック・トラック」という)、あとでそれをヘッドホンで聴きながらボーカルやコーラス、リードギターなどを重ね録り(「オーバーダビング」という)するそうなんですよね。
こうしたやり方はビートルズが発展させたらしくて、中学の頃、ビートルズ・ファンである父から借りたビートルズの歴史の本を読んで、こうした録音技術の概念を知りました。そのやり方を、「遠隔地同士の録音」に応用したわけです。
話を戻しますが、まずは大庫さんに「ベーシック・トラック」として、笹の露全曲の三絃本手のみ録音して頂きました。
ちなみにその音源は、「オンライン下合せ」の最初の頃「後歌」「後の手事・チラシ」の動画ではそのまま使用していますので、お聴き頂くことができます。この二つの動画には、大庫さんは映ってませんよね。大庫さんはベーシック・トラックの「音だけ」の参加で、それをイヤホンで聴きながら、東さんと山口が合奏しているわけです。
しかし、「中歌」の動画では、今度は東さんが歌われ、イヤホンをされてません。これは、まず東さんがお一人で中歌の動画を撮られ、そこから「音だけ」を抜き出した音源を聴きながら、大庫さんと山口が合わせているわけです(山口は「音のみ」の参加)。
2、「3人」が映る動画
ここまでは、メンバー3人のうち、誰かが映像から抜けていましたので、「前歌~手事」ではぜひ映像も「3人の共演」にしたいと思っていました。
そこで脳裏をよぎったのが、このブログの3番目の記事【「而今の会への思い」】でご紹介した、大和証券のCM映像です。
まず最初は、アメリカのサンタモニカで、アコギ一本をかき鳴らすストリートミュージシャンから動画は始まります。しかし、しばらくすると、同じくアメリカのニューオーリンズで港を背景にした味のあるシンガーにバトンタッチし、ニューヨークのバンジョー奏者、ブラジルのパーカッショニストなどに次々と映像が映っていきながら、少しずつ演奏楽器が増えていきます。その中には、日本のギタリスト・Char氏や、篳篥の東儀秀樹氏らもいます。これは面白い演出だなと思いました。ちょっとそれのパロディ風にして、前歌の最初は大庫さんの三絃本手独奏で始まり、途中から東さんの箏、最初の合いの手から山口の尺八、というカメラワークにしてみることにしました。
※ただ、実は3人がそれぞれ撮影したのは、本当は全て前歌の最初からの全曲で、「合奏確認用」に3人が聴いて検討を行った音源資料の方には、曲の冒頭から箏、尺八も入っています。
この動画を実現するためには、3人全員の動画が必要です。ですので、最初に録音してもらった大庫さんの三絃本手を、大庫さん自身にもイヤホンで聴いていただきながら、もう一度同じ曲を同じテンポで弾き歌いしていただき、撮影していただいたわけです。ですので、3人ともがイヤホンをしながら演奏録画しているんですね。
ただ、この手法だと、Macの動画編集ソフト・iMovieでは画面を分割しても2人しか同時に映せません。せっかくなので、「3人同時に」映っている画面も表示させたいと思いました。
そこで、「iPhoneのiMovie」を利用して、まずは東さんと山口の「縦2分割」の動画を作り(iPhone版のiMovieではそれができる)、できた動画と大庫さんの三絃本手を横並びに表示させることで「画面の3分割」を実現しました。手事の途中からは、この「3分割」の画面表示にしています。
3、「音」の編集
「音」の編集は、Macに付属の「GarageBand」というソフトでやっています。三絃本手、箏替手、尺八にそれぞれ1トラックずつ割り当てて、合奏のタイミング調整はもちろん、各楽器のボリューム調整、ステレオの調整(箏は左スピーカー寄り、センターは三絃、右スピーカーに尺八)をしています。音のエコーやリバーブ等は一切かけておらず、「iPhoneやタブレット等、撮影機材のマイクが拾った音そのもの」にしております。
こうした「合奏動画」の撮影は、洋楽器では結構な数がYouTubeに出回っていますが、純邦楽、それも地歌箏曲で取り組んだのは「而今の会」が初なのではないかと思います。
この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひまた「オンライン下合せ」の動画をご視聴頂いたり、あるいはお知り合いの奏者同士で撮影に挑戦してみたりされてはいかがでしょうか?
こうした「動画」に面白さを感じる古曲ファンが増え、YouTubeの三曲合奏の方も活況を呈したならば、また新たな地歌箏曲の展望が開けてくるかもしれないと思っています。
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